東京高等裁判所 昭和28年(う)1704号 判決
被告人 若松弁市
〔抄 録〕
弁護人宮崎隆蔵の控訴趣意第一点について。
凡そ、横領の罪の成立するには、自己の占有にかかる他人の物を不法に領得する意思の表現としての所為のあつたことを必要とする。然るに原判文(原判示(二)の後段において犯罪事実として引用されている昭和二十八年一月十二日附起訴状記載の第二の(2))によれば、被告人は、昭和二十七年十月四日頃小久保己視也から販売方依頼を受け交付されたシホン・ベルベット五反を自己において保管中同月十五日頃同都国電新橋駅西口附近において鈴木某に擅に右ベルベット三反を代金約七万五千円で売却してこれを横領したものであるとあつて、判文だけの事実表示では右売却の所為をもつて不法領得の意思発現ありたるものと言うには未だにわかに理解し難いものがあつて、罪となるべき事実として判文上少くとも判文記載の事実関係から了知し得る程度に判示さるべきことを必要とする有罪判決の理由としては、なお備わらないものがあると言わざるを得ない。原判決は結局判決に理由を附さない違法あるに帰し、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。
註 判旨の理由により破棄自判し、証拠により認定した該当部分の判示は次のとおりである。「被告人は、二七・一〇・四Aから販売方依頼を受けた時価七一八五〇円相当のシホン・ベルベット五反の交付を受けて保管中、生活費その他の自己の費用に窮し、これを自己に領得するの意思をもつて他に処分せんことを企て、(1)同日頃B方で右ベルベット二反を擅に代金一六六五〇円で同人に入質し、(2)同月一五日頃右残りのベルベット三反をX所で擅にBを介して代金約七五、〇〇〇円で他に売却してそれぞれ横領したものである。」